お知らせ

CBTコラム②

2014.12.20

抑うつに対する認知行動療法

当院心理課では、認知行動療法(cognitive behavior therapy : CBT)に力を入れています。前回はCBTの概略を説明しました。

今回は抑うつに対するCBTを詳しくご紹介します。

認知と気分のつながり

CBTでは、認知(物事のとらえ方や考え方)と抑うつ気分が関連していると考えます。もちろん、認知と気分はお互いに影響を与え合っているのですが、CBTでは特に、認知から気分への影響を重視します。

たとえば、メールを送ったのにすぐに返事が来ないという状況で、「誰も私のことなんか気にかけてくれない」と考える(認知する)と、悲しい気分・抑うつ気分に陥ってしまいます。「返信ぐらいすぐにしろよ」と考えてしまうと、怒りの感情が湧いてきます。ところが、「忙しくて返信ができないのだろう」と考えると、気分も平気なままでいられます。

このように、認知は気分に影響を与えますので、CBTでは認知を変えることによって気分の改善(適正化)を図ろうとするわけです。気分を自分の意志で直接コントロールすることはできませんが、認知であれば自分の意志で直接変化させられる可能性があるのです。

質問による認知の変容

このように言うと、「考え方(認知)がそんな簡単に変えられれば苦労しない」と反論されるかもしれません。確かにそのとおりです。CBTでは、「このように考えなさい」と指示して認知を変えるのではありません。そのような説得で認知が簡単に変わることは少ないからです。

ではどのようにして認知の変容を図るのでしょうか。それは、対話の中でセラピストが気づきを促すような質問を投げかけることによって、自然と認知が変化するように働きかけるのです。たとえば、「どうしてそのように考えるのですか?」と根拠を尋ねたり、「知り合いが同じ状況で困っていたらどのように声をかけてあげますか?」と立場を変えるような問いかけをしたりします。

こうして徐々に新しい考え方もできるように促していく、現実的な認知のレパートリーを増やしていくのがCBTです。今までの認知を全否定して、全く新しい考え方だけをするように強要するのはCBTではないと私は考えています。

行動による認知の変容

また、行動を変えることによって認知を変える方法もあります。たとえば、今までできないと思っていたことをセラピストと患者さまが相談し、何とか実行できるような作戦を立てます。そして「行動実験」として試しにやってみるのです。できないと思っていたことができると、自分の力についての認知も変化し、自己肯定感も芽生えてきて、気分の改善が図れます。

セラピストの役割

このように、CBTを行うセラピストは、認知の変容を自然と導くような質問をしたり、行動が失敗に終わらないような段取りを立てたりして、患者さまと共同します。しかし、CBTの最終的な目標は、患者さま自身が自分で自分に適切な質問をしたり、スモールステップで行動の計画を立てたりできるようになることです。それを目指してセラピストは支援していくわけです。

 

文責:若井 貴史 (臨床心理士)

▲PAGE TOP