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研修報告 「対人関係療法ワークショップ(実践入門編)」

2015.03.04

対人関係療法ワークショップ(実践入門編)

去る1月25日、水島広子先生による「対人関係療法ワークショップ(実践入門編)」に参加した。対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy;IPT)とは、クラーマンやワイスマンらによって1960年代末に開発された治療法である。当初は非精神病性・非双極性で自殺念慮の強くない成人うつ病外来患者のために開発されたが、その後、他の障害や他の対象向けに修正、検証されてきた。IPTはその名称からあたかも対人関係を病気の原因ととらえる治療法のように誤解されることもあるがそうではない。精神科的障害は、遺伝、パーソナリティ、ストレス、社会状況など、さまざまな要因の結果で起こるものであり、IPTでは病気の原因については何ら仮説を立てないのである。一方で、うつ病などの発症のきっかけを見ると、そこにはほとんど必ず「対人関係上の状況」がある。IPTはこの「症状と対人関係問題の関連」を理解し、対人関係問題に対処する方法を見つけることによって症状に対処できるようになることを目指す治療法といえる。

研修を受けたなかで特に印象に残っているのは、その「戦略性」である。IPTは通常、12~16セッションで終了する期間限定の治療法であるため、“現在の”“重要な他者”との関係性に注目し、対人関係上の4つの問題領域(悲哀・対人関係上の役割をめぐる不和・役割の変化・対人関係の欠如)のうち1つか2つに焦点化して進めるという、極めて高度な戦略を必要とされる。治療において、ついクライエントの訴えや症状といった問題だけに捉われてしまいがちであるが、一見関係ないように思えたとしても、「発症のきっかけには必ず対人関係上の状況がある」というIPTの視点は、見立てに深みを与え、クライエント理解に非常に役立つものであると感じた。直接的に症状や困り事を取り扱う認知行動療法と比較すると効果がみられるまでには時間がかかる一方、治療が終わった後も改善が続くという研究結果も興味深いものであった。

今回の研修では入門編であったため、すぐに実践というわけにはいかないかもしれない。心理療法の基本的な技術(特に支持的精神療法)を身につけていることが大前提だと強調されていたため、今後も研鑽を続けながらIPTの重要な要素(特に4つの問題領域という視点)を取り入れることから始めたいと思う。

 

文:臼井 卓也 (臨床心理士)

※上記文章は財団誌「ティータイム」2015年3月号の内容を編集して掲載しています。

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